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赤色立体図で見る奥出雲の地形 奥出雲のジオ 入門編7

はじめに~地形を読むための地図

 地形を詳細にわかりやすく図面として表すにはどうすれば良いか、その手法は昔からいろいろと考えられてきました。一般的な2万5千分の一地形図では、熟練した人であれば等高線を見るだけでその場所の地形が頭の中に浮かぶのですが、それを言葉にして説明するのは難しいものです。裸地であれば航空写真である程度はわかりますが、撮影する角度が垂直ではやはり立体感がわかりにくいものになっています。色を変えたり谷や尾根地形に影を付けたりしても、谷と尾根が逆転して見えるなど多くの課題が出てきました。

第1図 地理院地図単色地図 一般的な地形図

何度か使用している地理院地図のサイトから左上の「地図」と書かれたアイコンをクリックするとメニューが表示されます。ここから「標高・土地の凹凸」をクリックすると、地図表現を変えた様々な地図をみることができます。
https://maps.gsi.go.jp/#15/35.221362/132.983837/&base=std&ls=std&disp=1&vs=c1g1j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f0

第2図  地理院他図陰影付 やや立体感がある
第3図 陰影起伏図 コントラストが強いため地形がわかりやすい
第4図 色別標高図+陰影起伏図
第5図 傾斜量図

 傾斜量図は、レーザー測量で得られた標高データを元に地表面の傾きの量を算出し、その大きさを白黒の濃淡で表現したものです。レーザー測量は、航空機などからレーザーを照射し、反射して帰ってくるまでの時間で地表の高度変化をデータ化したものです。https://www.gsi.go.jp/kankyochiri/Laser_senmon.html
 航空写真では植生に邪魔されて地表の様子がわからない場所も、反射してくる異なる周波数のレーザーの速度差を利用することで、植生の下にある地形を読み取ることができるもので、微細な地形を読み取るために活用されています。傾斜量図は山や谷などの傾斜を視覚化したもので、傾斜が急であればあるほど濃く緩やかであれば白っぽい色で表現されます。黒っぽい場所(色が濃い場所)ほど急傾斜で白っぽいところは緩傾斜から平坦面という地形表現です。測量のデータ精度が高ければ高い(メッシュの間隔が小さい、つまり標高データを得る間隔が短い)ほど詳細な図になりますが、広範囲が見える全体図にしたときに、逆にわかりにくくなるという欠点もあります。
 第5図では地図の左側は細かな標高データが得られているため、田の畦や道路など細かな地形が見えますが、右側は標高データの間隔が大きいため細かなデータがよみとれなくなっています。

 白と黒では稜線と谷の部分が逆転して見えることがあり、使用時に気をつける必要がありましたが、アジア航測の千葉達朗氏により、赤色を加えることでそのような現象が起こらなくなるこことが示され、赤と黒と白の三色で表現されるようになったのが「赤色立体地図」です。この地図の発表は地形研究に大センセーショナルを引き起こし、現在では様々な場所で活用されるようになりました。
https://www.rrim.jp/

 奥出雲町では町内全域にわたって行われた精密なレーザー測量を元に赤色立体地図を製作しています。一般には公開されていませんが公的機関が研究用として申請すれば使用することができます。昨年奥出雲多根自然博物館でも申請し、使用許可が出たため研究や展示に役立てるために使用しておりますが、奥出雲の地形についていくつか興味深い知見が得られましたので紹介していきます。

どのように見えるのか?

 赤色立体地図は赤と白の二色なので、見方によっては内臓のように見えて気持ち悪い、という声もありますが、なれると色々な物が見えてきます。

https://maps.gsi.go.jp/#13/35.213508/132.999630/&base=std&ls=std%7Cred%2C0.76&blend=1&disp=11&lcd=red&vs=c0g1j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f1
地理院地図で見る博物館周辺の赤色立体図

 最近ニュースになったのは、奥出雲町内では未発見の古墳が想像以上にあり、これまではほとんど知られていなかった前方後円墳がかなりの数存在していることがわかったことです。

https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/478800
前方後円墳 奥出雲で新たに77基 赤色立体地図 発見に貢献 本庄考古学研究室・曳野律夫さん

第6図a  博物館近く 佐白から八代地区の赤色立体地図
第6図b  博物館近く 佐白から八代地区の赤色立体地図  注釈を追加

 これ以外にも従来知られていなかった場所に円墳や方墳らしき地形が古墳群レベルで集中している地域もあり、そのほとんどは当然、未発掘の古墳ということになります。その反面「鉄穴流し」や道路取り付けで破壊されてしまっている古墳もちらほら見られます。いずれにせよ古墳時代の奥出雲はかなり人口が多く、前方後円墳をいくつも作るかなり裕福なクラスの集団があったということを想像させます。

第7図 馬馳地区の古墳群

 イボのように見えているのは円墳です。いくつ発見できますか?
 谷を取り囲むように古墳が造られているのは、何かしら祭祀もしくは呪術的な背景、あるいは政治的な意図があったのかもしれませんが、文献など何も残っていない時代ですので想像の域を脱し得ないのは仕方の無いことです。
 現在、奥出雲町のすべての古墳を調査することは不可能ですが、意味のありそうな場所の発掘が進むと良いなぁ、と思っています。

 次回以降、赤色立体地図で見える様々な奥出雲の地形や以降を紹介していきます。


                                                                  次回へ続く