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天狗の仕業?権現山の奇石「天狗岩」 [奥出雲のジオ 入門編 4]

 巨大な岩は人を惹き付けるものがあるのか、観光地になっている巨石や変わった形の石、巨岩や崖などの絡んでいる観光地はよくあります。奥出雲で巨石がゴロゴロしている渓谷として有名なのは鬼の舌震い(正式名称は「鬼舌振」)で、今の時期には紅葉狩りに多くの観光客が散策に訪れます。

鬼の舌震いの烏帽子岩と紅葉

 奥出雲町は主に花こう岩類が広く分布している場所ですので、巨石もまたたいていは花こう岩類です。元々は地下に形成された巨大なマグマだまりが10万年以上かけてゆっくりと冷え固まるものですので、地表に露出した場合は広範囲に露出しているはずですが、奥出雲を始めとした地域の花こう岩は風化が進んでおり、たいていの場合は風化して崩れやすくなった真砂土(まさど:グラウンドなどに撒かれている砂に使われている)と、風化していない硬い丸っこい岩が露出することになります。

 硬い部分が露出していると、たまに奇妙な巨石になりますが、この代表的なものとして、横田の加食地区にある権現山の中腹にある通称「天狗岩」が上げられます。

天狗岩


現地の看板

 岩の中腹あたりに巨大な出っ張りがあり、今にも落ちて来そうな雰囲気があります。形が天狗の鼻を想像させるのか、はたまた実際に天狗のような人が修行をしていたのかわかりませんが、いずれにしても人知を超えた成因を考えたくなる巨石です。
 岩の一番下には岩盤を彫り込んだ手水鉢があり、地元の方々の愛着の深さが想像できます。

しみ出してくる地下水をためるように岩盤に彫り込まれた手水鉢


江戸時代の文政年間に彫られたことがわかる

 地層のように見える平行な割れ目は「シーティングジョイント」と呼ばれる節理の一種で、山の傾斜に平行に作られる割れ目です。花こう岩類はこの割れ目に沿って破壊や崩壊が進んでいきます。この天狗岩もシーティングジョイントに沿って崩落が起こった結果、巨大なオーバーハングを持つ巨石として現在の形に至ったと考えられます。
 ただ見た目は逆に、岩を積み重ねたような雰囲気があるので「天狗の仕業じゃ」と思い込んだ昔の人たちが天狗岩と名付けたのかもしれません。


オーバーハングの部分