赤色立体地図の地形表現 奥出雲のジオ 入門編8
みなさんは山の本当の形を考えたことがありますか?
われわれは日常的に植生をひっくるめた部分を山の形として認識していますが、本来の山の形は、植生をすべて取り除いたものです。第1図の写真のように山の木が伐採されている場所で初めて、本来の山の形を認識することができます。詳細な地形を知るためにはこの植生や人工物を取り除く必要がありますが、現実的ではありません。これを解消したのがレーザーを使った航空測量であり、それで得られたデータから作成されたのが赤色立体地図というわけです。
赤色立体地図の地形表現は、植生や人工物などの地表を被覆するものがない、要は植生をすべて伐採しているような状態の本来の地形を視覚化するもので、仕組みを理解すれば直感的に地形を理解することができます。また自然の地形と人工的な改変地形の区分が明瞭にできるので、対象によっては地形改変の歴史を調べることもできます。特に奥出雲では「たたら製鉄」で使用する砂鉄を採取するために行われた「かんな流し」が各地で行われており、その痕跡や規模を知ることができます。
以下、奥出雲町の赤色立体地図で見られる地形をQGISを使用した画像で紹介していきます。
尾根と谷と平地
地形区分の基本は尾根(山)と谷(川)と平地と海岸です。奥出雲町の場合は海岸線がないので前者3つになります。
第2図と第3図は奥出雲町の南の阿井地区の内谷周辺の赤色立体地図です。中央にある、上に向かって枝分かれしていく白いラインは山の尾根線を表現しています。枝分かれの間の暗い部分は谷を表しています。白は傾斜が緩いことを示しており、赤が強くなるに従って傾斜が急であることを示します。谷の部分が赤黒くなっているのは傾斜の急な谷であることを示しています。奥出雲は比較的緩傾斜の尾根筋が多く、尾根は白い線で表されることが多くなります。
平坦地は白塗りベタに近い表現になります。第2図の真ん中の枝分かれを取り囲むように白ベタの部分が広がっており、白ベタを区切る線のようなものと合わせて人工的な地形であることを予想させます(第3図の黄緑色の部分)。この中に同じ幅でうねうねと伸びるラインがあり、これは舗装道路であることを示唆します(第3図黄色の部分)。田んぼのある平坦面をギザギザに削り取っているように見えるラインは川です(第3図青色の部分)。
第4図は地理院地図を重ねたものです。赤色立体地図では地形変化はわかるのですが標高はわかりませんし土地利用もわからないため、地理院地図を重ねることでより詳細な情報を知ることができます。これを見ると図の中央の山地の最高地点が610mで、ここから広がる尾根が白い枝分かれとして表現され、等高線幅の狭い急な傾斜の場所が赤色が濃い表現になっていることがわかります。また平坦地が水田として利用され、道路が国道であることがわかります。
山の露岩~コアストーン
加食地区にある権現山は花崗岩の露岩が多い場所で、赤色立体地図にもその様子が見て取れます。第5図の中でイボのようにつぶつぶと表現されているのが露岩です。地理院地図を重ねたものが第6図ですが、海抜450m~500mのところに露岩(コアストーン)が集中しており(A)、真っ黒な表現は垂直に近い崖を表しています。露岩部分は崩壊跡地でもあることが多く、そこから落下した巨大な岩塊や土石によって谷が埋められたため、全体的に傾斜の緩い谷が発達していると考えられる場所もあります(B) 露岩の中には大きなオーバーハングをしているものもあり、「天狗岩」と名付けられています(C)。
コアストーンの中には不安定なものもあり、大雨や地震などで剥落落下する可能性もあります。公共交通網や家屋から離れている場合は問題ないのですが、落下転落方向にそのようなものがある場合は、コアストーンをワイヤーなどで固定、あるいはあらかじめ除去する防災工事が必要になることもあります。
赤色立体地図は、このような災害予測、あるいは防災のために極めて重要な情報を持つと言え、近年は活用されることが多くなっています。