たたら製鉄を生んだジオとは? [奥出雲のジオ 入門編 3]
さて、梅雨時期になると、局地的な大雨で土砂災害が起こりやすくなります。中国地方では数年に一度の割合で大規模な土砂災害が起こっていますが、地盤の地質が【風化花こう岩】からなる場所で起こることがよくあります。花こう岩は地下深い場所でマグマがゆっくりと冷えて固まってできる深成岩の一種で、風化していない場所では堅牢で非常に強い岩盤を作ります。場所によっては、長い時間をかけて岩盤の割れ目からしみこんだ地下水により、花こう岩を作る鉱物同士をくっつけている部分が粘土化して鉱物がバラバラになりやすくなります。このバラバラになりやすくなった花こう岩を「風化花こう岩」とよびます。バラバラになって砂状になったものをマサ土と呼び、学校のグラウンドなどに撒かれていることがしばしばあります。
この風化花こう岩、地盤であればそこそこ強いのですが、さらに風化が進んだものが山の斜面を構成している場合、大雨が降ると水が染み込んで非常に重たくなり、降水量が排水量を上回ると不安定になります。この重さがリミットを越えると、大量の水と同時に崩れ流れ下るいわゆるがけ崩れや土石流を引き起こします。また、この中には粘土化を免れた非常に固いコアストーンと呼ばれる塊があり、土石流が起こると直径が数メートルあるようなコアストーンが大量の水と砂によって押し流され、下流域の家屋や建物を破壊し被害を大きくします。
奥出雲のジオを語る上で、実はこの風化花こう岩という言葉は重要で、奥出雲町の大地の大部分が風化花こう岩で構成されていることが、奥出雲の歴史を作ったと言っても過言では無いでしょう。
奥出雲の花こう岩にはおよそ1%程度の砂鉄が含まれています。花こう岩が硬岩の状態ですと砂鉄を取り出すことは非常に困難ですが、風化カコウ岩であれば取り出すことが可能になります。つまり山を人工的に切り崩し、大量の水で流すことで比重選鉱を行い砂鉄成分(山陰の場合は磁鉄鉱がほとんど)を集めることができます。こうして集めた砂鉄を使った製鉄方法が「たたら製鉄」です。奥出雲を含むエリアでは江戸期末期から明治時代初期にかけて国内の鉄生産量の半分以上を生み出していた時代もあり、同時に新田開発も行われました。このような奥出雲の最盛期を作ったのが奥出雲をつくるジオに由来することは、ぜひ知っておいて下さい。
トップ画像は奥出雲町三所にある夫婦岩の10年近く前の姿です。一時流行った刀で真っ二つに切られた岩っぽいのですが、これはコアストーンが自然に真っ二つに割れたもので、成因は定かではありません。スサノオノミコトがこの岩の上に降り立った時に割れた岩ともされています。現在は農道が整備されたため半分土に埋もれた状態になっています。